LSM (Logical Storage Manager) ソフトウェアは,オプションのホスト・ベースの統合型ディスク・ストレージ管理アプリケーションです。 このソフトウェアを使用すると,ユーザやアプリケーションによるストレージ・デバイス上のデータ・アクセスを中断することなく,ストレージ・デバイスを管理できます。 LSM はどんな種類のシステムでも役立ちますが,特に,多数のディスクを持つ構成や,ディスクが恒常的に追加される構成で役立ちます。
LSM は RAID (Redundant Arrays of Independent Disks) 技術を使用して,ストレージ・デバイスをストレージの仮想プールとして構成します。 この仮想プールから,LSM ボリュームを作成することができます。 新規および既存の UFS ファイル・システム,AdvFS ファイル・システム,データベース,およびアプリケーションを,LSM ボリュームを使用するように構成できます。 また,RAID ストレージ・セット上に LSM ボリュームを作成することも可能です。
ディスク・パーティションの代りに LSM ボリュームを使用する利点は,次のとおりです。
ミラーリング (RAID 1) またはパリティ付きストライピング (RAID5) による,データ紛失からの保護
複数のストレージ・デバイスを繋ぎ目なしで結合し,ユーザやアプリケーションには 1 つのストレージ・デバイスとして見せることによる,ディスクの最大限の活用
異なるディスクと異なるバスにまたがってストライピングを行う (RAID 0) ことによる,性能の改善
TruCluster Server 環境におけるデータ可用性
TruCluster Server ソフトウェアは,ネットワーク上の複数の Tru64 UNIX システムが単一のシステムに見えるようにします。 TruCluster Server ソフトウェアを実行しているシステムはクラスタのメンバになり,リソースとデータ・ストレージを共用します。 この共用により LSM などのアプリケーションは,実行中のクラスタ・メンバに異常が発生しても,中断することなく続行することができます。
この章では,LSM の機能,概念,用語,および利用可能なインタフェースについて説明します。
LSM
の用語とコマンドについては,
volintro(8)1.1 LSM オブジェクト階層の概要
LSM は次のオブジェクト階層を使用して,ストレージを編成します。
LSM ディスク -- LSM 専用に初期化されたストレージ・デバイスを表すオブジェクト。
ディスク・グループ -- 1 つの LSM ボリュームが使用する LSM ディスクの集まりを表すオブジェクト。
サブディスク -- LSM がボリューム・データの書き込みに使用する LSM ディスク上の,連続するブロックのセットを表すオブジェクト。
プレックス -- LSM がボリューム・データやログ情報のコピーを書き込むサブディスクまたはサブディスクの集まりを表すオブジェクト。
ボリューム -- ディスク・グループ内の LSM ディスク,サブディスク,およびプレックスを含む LSM オブジェクトの階層を表すオブジェクト。 アプリケーションやファイル・システムは,LSM ボリュームに対して読み取りおよび書き込みを要求します。
以降の項では,LSM オブジェクトの詳細を説明します。
1.1.1 LSM ディスク
LSM ディスクは,LSM 専用に構成されているディスク,ディスク・パーティション,およびハードウェア RAID セットなどの,Tru64 UNIX がサポートするストレージ・デバイスです。 LSM でのストレージの見え方は,Tru64 UNIX オペレーティング・システム・ソフトウェアの場合と同じです。 たとえば,オペレーティング・システム・ソフトウェアが RAID セットを 1 つのストレージ・デバイスと見なす場合は,LSM も RAID セットを同様に見なします。 また,LSM はハードウェア・ディスク・クローンを認識し,サポートします。
サポートされているストレージ・デバイスについての詳細は,次の URL の 『Tru64 UNIX QuickSpecs』(以前の『Tru64 UNIX ソフトウェア仕様書 (SPD)』) を参照してください。
http://h50146.www5.hp.com/products/software/oe/tru64unix/manual/os/
図 1-1
に,LSM がサポートしている一般的なハードウェア構成を示します。
図 1-1: 一般的な LSM ハードウェア構成
ストレージ・デバイスは,LSM 用に初期化されると,LSM ディスクとなります。 LSM ディスクは,3 種類あります。
スライス・ディスク。 ディスク全体を LSM 用に初期化すると,作成されます。
スライス・ディスクでは,ストレージが,異なるパーティション上の 2 つのリージョン (データの格納に使用される大きな公用リージョンと,LSM 構成情報などの LSM 内部メタデータを格納するプライベート・リージョン) として編成されます。
省略時のプライベート・リージョンのサイズは,4096 ブロックです。
シンプル・ディスク。
c
パーティションも含め,ディスク・パーティションを LSM 用に指定すると作成されます。
シンプル・ディスクでは,ストレージが,同じパーティション上の 2 つのリージョン (データの格納に使用される大きな公用リージョンと,LSM 構成情報などの LSM 内部メタデータを格納するプライベート・リージョン) として編成されます。
省略時のプライベート・リージョンのサイズは,4096 ブロックです。
可能な限り,個々のディスク・パーティションをシンプル・ディスクとして構成するのではなく,ディスク全体を 1 つのスライス・ディスクとして初期化してください。
これにより,ディスク・ストレージが効率的に使用され,同じディスク上のスペースにプライベート・リージョンが複数存在することを防止できます。
nopriv ディスク。 LSM の制御下に置くデータが収められたディスクまたはディスク・パーティションをカプセル化すると作成されます。
nopriv
ディスクでは,既存のデータ用の公用リージョンだけが作成され,プライベート・リージョンは作成されません。
LSM で使用するためにディスクを初期化すると,指定したデバイスに応じて,LSM によってディスク・アクセス名が割り当てられます。
たとえば,ディスク
dsk4
を初期化すると,ディスク・アクセス名は
dsk4
になります。
また,ディスク・パーティション
dsk4b
を初期化すると,ディスク・アクセス名は
dsk4b
になります。
同一ディスク内の複数のパーティションを,別個の LSM ディスクとして初期化する場合は,それぞれに独自のディスク・アクセス名が付けられます。
たとえば,dsk2b
や
dsk2f
です。
1.1.1.2 ディスク・メディア名
LSM ディスクをディスク・グループに追加すると,ディスク・メディア名が割り当てられます。 この名前はディスク・アクセス名,または割り当てた名前のいずれかになります。 英数字 31 文字まで (スペースとスラッシュ ( / ) を除く) のディスク・メディア名を割り当てることができます。
たとえば,ディスク・アクセス名が
dsk1
のディスクは,dsk1
というディスク・メディア名にすることも,独自にディスク・メディア名 (たとえば,finance_data_disk) を付けることもできます。
LSM は,ディスク・メディア名と,ディスク・アクセス名の対応を維持します。 ディスク・メディア名により,オペレーティング・システムの命名規則と独立させることができます。 これにより,デバイスを新しい位置に移動しても (たとえば,別のコントローラに移動するなど),LSM はそのデバイスを見つけることができます。
ディスクをディスク・グループから削除すると,ディスク・メディア名は失われます。 ディスクを異なるディスク・グループに追加する場合には,ディスクに異なるディスク・メディア名を割り当てることができます。 または,デフォルトでディスク・アクセス名を使用することもできます。
1 つのディスク・グループ内では,すべてのディスク・メディア名は一意である必要がありますが,異なるディスク・グループには,同じディスク・メディア名を持つディスクがあっても構いません。
1.1.2 ディスク・グループ
ディスク・グループは,LSM ディスクをグループ化したものを表すオブジェクトです。
ディスク・グループ内の LSM ディスクは,ディスク・グループ内のすべての LSM オブジェクト (LSM ディスク,サブディスク,プレックス,およびボリューム) を識別する共通の構成データベースを共用します。
LSM は,各ディスク・グループ内の複数の LSM
スライス・ディスクまたはシンプル・ディスクのプライベート・リージョンに,自動的に構成データベースのコピーを作成し維持します。
プライベート・リージョンの省略時の設定サイズは 4096 ブロックで,それぞれの LSM オブジェクトに対し,1 つのレコードが必要です。 2 つのレコードが 1 セクタ (512 バイト) に格納できます。 したがって,省略時のプライベート・リージョン・サイズで,8192 個のオブジェクト (LSM ディスク,サブディスク,プレックス,およびボリューム) を追跡するための構成データベース用の領域が確保できます。
LSM は冗長性を確保するために,これらのコピーをすべてのコントローラに分散させます。 1 つのディスク・グループ内に存在する LSM ディスクが同じコントローラ上に配置されている場合,LSM はこのコピーを複数のディスクに分散させます。 LSM は LSM 構成の変更を自動的に記録し,必要であれば,ディスク・グループの構成データベースのコピーの数や位置を変更します。
LSM
nopriv
ディスクのみのディスク・グループを作成することはできません。
これは,LSM
nopriv
ディスクには構成データベースを格納するためのプライベート・リージョンがないためです。
省略時の設定では,LSM ソフトウェアは
rootdg
という名前のディスク・グループを作成します。
rootdg
の構成データベースには,rootdg についての情報と,ユーザが作成した他のディスク・グループすべての情報が入っています。
1 つの LSM ボリュームが使用できるのは,同じディスク・グループ内のディスクだけです。
すべてのボリュームを
rootdg
ディスク・グループに作成することも,別のディスク・グループを作成することもできます。
たとえば,財務 (financial) データをディスクに格納する場合,finance
というディスク・グループを作成してディスクを割り当てることができます。
1.1.3 サブディスク
サブディスクは,LSM がデータの格納に使用する LSM ディスク公用リージョン内の,連続するブロックのセットを表すオブジェクトです。
省略時の設定では,LSM は LSM ディスク・メディア名の後にダッシュ (-) と 2 桁の数字 (01 からの昇順) を付けたサブディスク名を割り当てます。
たとえば,dsk1-01
という名前が考えられます。
あるいは,英数字 31 文字まで (スペースとスラッシュ ( / ) を除く) のサブディスク名を割り当てることができます。
たとえば,ディスク・メディア名として
dsk3
を持つディスクに
finance_disk-01
というサブディスク名を割り当てることができます。
サブディスクとなるのは,次のリージョンです。
公用リージョン全体。
図 1-2
では,LSM ディスクの公用リージョン全体が
dsk1-01
という名前のサブディスクとして構成されています。
図 1-2: 公用リージョンを使用する単一のサブディスク
公用リージョンの一部。
図 1-3
では,LSM ディスクの公用リージョンが,dsk2-01
および
dsk2-02
という名前の 2 つのサブディスクとして構成されています。
図 1-3: 公用リージョンを使用する複数のサブディスク
データ・プレックスは,LSM がボリューム・データを書き込むディスク・グループにある,サブディスクやサブディスクの集まりを表すオブジェクトです。
省略時の設定では,LSM はボリューム名の後にダッシュ (-) と 2 桁の数字 (01 からの昇順) を付けたプレックス名を割り当てます。
たとえば,volume1-01
は,ボリューム名が
volume1
のボリュームの最初の (そして,唯一の) プレックス名です。
あるいは,英数字 31 文字まで (スペースとスラッシュ ( / ) を除く) のプレックス名を割り当てることができます。
たとえば,finance_plex01
というプレックス名を割り当てることができます。
データ・プレックスには,次の 3 つのタイプがあります。 LSM にディスク上でボリューム・データをどのように格納させたいかによって,データ・プレックスを選択します。
連結データ・プレックスでは,LSM はボリューム・データを順次連続して書き込みます。 1 つのサブディスク内のスペースがすべて書き込まれると,残りのデータはプレックス内の次の順番のサブディスクに書き込まれます。 このプレックス・タイプについての詳細は,1.1.4.1 項を参照してください。 ボリュームは,複数の連結データ・プレックスで構成することができますが,その場合そのボリュームは,連結ミラー・ボリュームと言われます。
ストライプ・データ・プレックスでは,LSM はデータを (ストライプ幅で定義されている) 同じサイズのユニットに分割し,このデータ・ユニットをプレックス内の各ディスクに書き込みます。 これにより読み書きの操作が,複数のディスクに均等に分散されます。 このプレックス・タイプについての詳細は,1.1.4.2 項を参照してください。 ボリュームは,複数のストライプ・データ・プレックスで構成することができますが,その場合そのボリュームは,ストライプ・ミラー・ボリュームと言われます。
RAID5 データ・プレックスでは,LSM は書き込むデータのパリティ値を算出し,データとパリティを (ストライプ幅で定義されている) 同じサイズのユニットに分割して,データとパリティをすべてのディスクに分散させます。 このプレックス・タイプについての詳細は,1.1.4.3 項を参照してください。 ボリュームは,内部設計の制約により,1 つの RAID5 データ・プレックスからしか構成できません。
連結データ・プレックスでは,LSM はサブディスク上に連続するアドレス・スペースを作成し,ボリューム・データを順に連続して書き込みます。
データの書き込み中にサブディスクの終わりになった場合,LSM は次のサブディスクに引き続きデータを書き込みますが,図 1-4
で示すように,異なる物理ディスクになる場合もあります。
LSM によって,本来であれば未使用になる複数のディスク・スペースを使用することができます。
1 つのディスクの公用リージョンには,複数の異なるボリュームで使用されるサブディスクを含めることができます。
図 1-4: 連結データ・プレックス
連結データ・プレックスが 1 つあるボリューム内のサブディスクの 1 つに障害が発生すると,LSM ボリュームの障害となります。 このような障害を防ぐには,異なるディスク上に複数のプレックス (ミラー) を作成します。 LSM は,ミラー内のデータを絶えず維持します。 ディスク障害のためにプレックスが利用できなくなった場合,ボリュームは他のプレックスを使用して動作を継続します。
異なる SCSI バス上のディスクをミラー・プレックスに使用すると,複数のプレックスから同時にデータを読み取ることができるため,読み取り要求の処理が速くなります。
1.1.4.2 ストライプ・データ・プレックス
ストライプ・データ・プレックスでは,LSM はデータをストライプ幅 (省略時の設定では 64 KB) で定義されている同じサイズのユニットに分け,各データ・ユニットを異なるディスクに書き込みます。 この際,複数のカラム上にデータのストライプを作成します (通常はプレックス内のディスクの数だけ)。 カラム上のデータ分割を最適化するために,別のストライプ幅 (データ・ユニットのサイズ) を定義することもできます。
ディスクが別の SCSI バス上にある場合は,LSM は複数のデータ・ユニットを同時に書き込むことができます。
図 1-5
に,3 カラムのストライプ・プレックスを示します。
このタイプのプレックスでは,1 つの I/O 書き込み要求は,同じサイズのデータ・ユニット (A,B,C,D など) に分割され,各データ・ユニットは順次異なるサブディスク (異なるディスク・カラム) に書き込まれます。
図 1-5: 3 カラムのストライプ・データ・プレックスからなるボリューム
1 回の書き込み要求で 1 つのストライプが完了しなかった場合,つまりデータ・ユニットが均等にカラムに振り分けられなかった場合は,次回の書き込み要求の最初のデータ・ユニットが,次のカラムから開始されます。
書き込み要求をデータ・ユニットのサイズで割ると余りが出て,書き込み要求の最後のデータ・ユニットがカラムの最後に来ない場合,次回の書き込み要求はそのカラムを完了させてから,次のカラムに移ることになります。
連結データ・プレックスの場合と同じように,ストライプ・データ・プレックスが 1 つあるボリューム内の 1 つのディスクに障害が発生すると,ボリュームの障害となります。 このような障害を防ぐには,異なるディスク上に複数のデータ・プレックス (ミラー) を作成します。 LSM は絶えずミラー・データ・プレックス内のデータを維持します。 ディスクの障害のためにプレックスが利用できなくなった場合,ボリュームは他のプレックスを使用して動作を継続します。
異なる SCSI バス上のディスクをミラー・プレックスに使用すると,データが複数のプレックスから同時に読み取られるため,読み取り要求の処理が速くなります。
1.1.4.3 RAID 5 データ・プレックス
RAID 5 データ・プレックスでは,LSM は各データ・ストライプのパリティ値を計算してから,データおよびパリティをストライプ幅で定義されている同じサイズ (省略時の設定では 16 KB) のユニットに分割します。 そして,そのデータおよびパリティのユニットを 3 つ以上のサブディスク・カラムに書き込み,複数カラムに渡るデータおよびパリティのストライプを作成します。 パリティは 1 つのデータ・ユニットに含まれます。 このため,ディスクの各カラムに,各データ・ストライプのパリティ値全体が含まれます。
LSM はパリティを,連続するデータ・ストライプの異なるカラムに書き込みます。 最初のストライプのパリティ・ユニットは,最後のカラムに書き込まれます。 以降の各パリティ・ユニットは,直前のパリティ・ユニットの位置から 1 つ左のカラムに置かれます。 カラムよりストライプの方が多い場合,パリティ・ユニットは再度最後のカラムから順に置かれます。
1 つのカラム内の 1 つのディスクに障害が発生しても,LSM は,障害が発生していないカラム内のデータおよびパリティ情報を使用して,失われたデータを再構築して動作を続けます。 カラム上のデータおよびパリティの分割を最適化するために,別のストライプ幅 (データ・ユニットのサイズ) を定義することもできます。
異なる SCSI バス上にカラムがある場合,LSM はデータおよびパリティを同時に書き込むことができます。
図 1-6
は,RAID5 データ・プレックスにデータおよびパリティ情報が書き込まれる様子を示しています。
図 1-6: RAID 5 データ・プレックス 1 つからなるボリューム
ログ・プレックスは,ボリューム内の動作についての情報を保持します。 障害発生時には,LSM はログ・プレックス内で障害時にダーティであった (書き込みがあった) と識別されたボリューム領域だけを回復します。
省略時の設定では,LSM は,ミラー・ボリューム (2 つ以上のストライプ・データ・プレックスまたは連結データ・プレックスを持つボリューム),および RAID5 データ・プレックスを使用するボリュームの,ログ・プレックスを作成します。 ミラー・ボリュームはダーティ・リージョン・ログ (DRL) プレックスを使用します。 また,オプションで,高速プレックス接続 (FPA) プレックスを使用します。 RAID5 ボリュームは RAID5 ログ・プレックスを使用します。
DRL プレックスでは,LSM は I/O 要求によって変更されたボリュームのリージョンを記録します。 システムがクラッシュ後に再起動されると,LSM はログ内でダーティとマークされたリージョンだけを再同期化します。 これにより,大規模なボリューム (数百 M バイト以上の場合は特に) 再同期に必要な時間が大幅に短縮されます。
リージョンは,データの書き込みが行われるまでダーティと記録されます。 書き込みが完了しても,すぐにはクリーンとならず,所定の期間はダーティと記されたままです。 これにより,同じリージョンにさらに書き込みが行われたときの,ログを保守するオーバヘッドが少なくなります。 所定の期間,そのリージョンに書き込み動作がない場合は,そのリージョンはクリーンとして記録されます。
DRL プレックスを使用していない場合,障害後にシステムが再起動すると,プレックスの一貫性を復元するために,LSM はすべてのデータを各プレックスにコピーして再同期を行います。 この処理はバックグラウンドで実行されるため,ボリュームは利用可能なままですが,処理に長くかかることがあり,回復の不要なデータを回復することがあります。 したがって,システムの性能が低下します。
高速プレックス接続ログ・プレックスは,ミラー・ボリュームのバックアップをサポートするために使用されます。 FPA ログには,データ・プレックスの 1 つが切り離されている間に変更されたボリューム内のリージョンが記録されます。 切り離したプレックスは,バックアップ用のセカンダリ・ボリュームを作成するのに使用します。 プレックスが元のボリュームに戻されると,FPA ログ・プレックスにマークされているリージョンだけが戻されたプレックスに書き込まれます。 これにより,そのプレックスをボリュームに再同期化する時間が短縮されます。
RAID5 ログ・プレックスでは,LSM は,複数の完全ストライプの I/O に対して,データとパリティのコピーを 1 つ格納します。 RAID5 ボリュームへの書き込みが行われると,パリティが計算され,パリティとデータが最初に RAID5 ログに書き込まれます。 その後,ボリュームに書き込まれます。 システムがクラッシュした後に再起動されると,RAID5 ログ内のすべての書き込みがそのボリュームに書き込まれます (再度書き込まれることもあります)。 RAID5 ログ・プレックスは,特殊なログ・サブディスクを使用します。
また,Version 4.0 との互換性を持たせるために,LSM では,データとログを結合したプレックスをサポートしています。
このタイプのプレックスは,Version 5.0 以降では使用されません。
1.1.6 LSM ボリューム
ボリュームは,ディスク・グループ内の,プレックス,サブディスク,および LSM ディスクの階層を表すオブジェクトです。 アプリケーションおよびファイル・システムは,LSM ボリュームに対して読み取り要求および書き込み要求を行います。 LSM ボリュームは,基礎となる LSM オブジェクトを利用して,要求を処理します。
1 つの LSM ボリュームが使用できるのは,1 つのディスク・グループのストレージだけです。
LSM は,省略時設定では,ボリューム名を割り当てません。 ユーザがボリューム名を,スペースとスラッシュ(/) を除く,31 文字までの英数字で割り当てる必要があります。 ディスク・グループ内ではボリューム名は一意である必要がありますが,異なるディスク・グループであれば,同一のボリューム名を持つことができます。
LSM ボリュームは,冗長構成と非冗長構成のどちらにもできます。
冗長ボリュームでは,ミラー化 (複数の連結データ・プレックスまたはストライプ・データ・プレックス) またはパリティ (RAID5 データ・プレックス) を通じて,データの高可用性が実現されます。
次の項では,これらの特性をさらに詳しく説明します。
1.1.6.1 非冗長ボリューム
非冗長ボリュームでは,データ・プレックスは 1 つで,データの冗長性はありません。 プレックスのレイアウトは,ストライプまたは連結です。
連結プレックスを 1 つだけ持つ非冗長ボリュームは,シンプル・ボリュームと呼ばれます。
これは,1 つ以上のディスク上の領域からなります。
これは最も単純なボリュームのタイプです。
シンプル・ボリュームは通常,すべてのボリューム・タイプの中で性能が最も低くなります。
1.1.6.2 ミラー・ボリューム
ミラー・ボリュームには,複数の連結データ・プレックスまたはストライプ・データ・プレックスがあり,省略時の設定では,ログ・プレックスも 1 個あります。 プレックスのレイアウトに応じて,このタイプのボリュームは,連結ミラー・ボリューム,またはストライプ・ミラー・ボリュームと呼ばれます。 一般的には,ボリューム内のすべてのデータ・プレックスのレイアウトは同じです (すべてがストライプ,またはすべてが連結)。 ただし,それは必須ではありません。
各データ・プレックスはボリューム・データのインスタンスです。 ミラー・ボリュームは,データを任意のミラーから読み込むことができるため,データの冗長性があり,性能が向上しています。 ミラー・ボリュームには,データ・プレックスと DRL プレックスを任意に 32 個まで組み合わせることができます。 ただしその定義上,ミラー・ボリュームにはデータ・プレックスが少なくとも 2 つ必要です。 ミラー・ボリュームは,各ミラー (プレックス) にボリューム・データの完全なコピーを持つため,冗長ボリュームです。
図 1-7
に,連結データ・プレックスとミラー・データ・プレックスがあり,ダーティ・リージョン・ログ (DRL) プレックスが 1 つあるボリュームを示します (1.1.5 項)。
図 1-7: 連結データ・プレックスとミラー・データ・プレックスのあるボリューム
図 1-8
に,ストライプ・データ・プレックスとミラー・データ・プレックスがあり,DRL プレックスが 1 つあるボリュームを示します。
図 1-8: ストライプ・データ・プレックスとミラー・データ・プレックスのあるボリューム
異なる LSM ボリュームは,サブディスクが異なれば,同一ディスク上のディスク・スペースを使用することができます。
図 1-9: 同一ディスク上のサブディスクを使用する 2 つの LSM ボリューム
図 1-9
では,ボリューム
V1
は,ディスク
dsk5
上のサブディスク
dsk5-01
内のスペースを使用しています。
ボリューム
V2
は,ディスク
dsk5
上のサブディスク
dsk5-02
内のスペースを使用しています。
ボリューム
V1
はストライプ・ミラー・ボリューム (2 つのストライプ・プレックスを使用) で,ボリューム
V2
はシンプル・ボリューム (1 つの連結プレックスを使用) です。
ディスク
dsk5
が故障しても,ボリューム
V1
はプレックス
V1-1
を使用して動作を継続できますが,ボリューム
V2
は冗長ではないため,完全に故障します。
1.1.6.3 RAID 5 ボリューム
RAID 5 ボリュームには,1 つの RAID5 データ・プレックスと 1 つの RAID5 ログ・プレックスがあります。 ボリュームに複数の RAID5 ログ・プレックスを追加することはできますが,1 つで十分です。 RAID5 ボリュームは,パリティ情報によるデータ冗長性があるため,冗長ボリュームです。
注意
RAID 5 データ・プレックスはミラー化できません。
TruCluster Server ソフトウェアは,RAID5 ボリュームをサポートしていません。
LSM ボリュームには使用タイプがあります。 このタイプによって,ボリューム上での操作規則のクラスを定義しています。 この規則は,一般的に,ボリュームの内容をベースにしています。 LSM には,以下の使用タイプがあります。
fsgen
-- ファイル・システムを含むボリュームのタイプ。
これが省略時の使用タイプです。
gen
-- スワップ領域や,システム・バッファ・キャッシュを使用しないアプリケーション (データベースなど) に使用されるボリュームのタイプ。
raid5
--
ボリュームの内容にかかわらず,すべての RAID5 ボリュームのタイプ。
LSM ではこのほかに,次のような特殊な使用タイプを使用します。
root
--
rootvol
ボリュームで使用。
スタンドアロン・システムのルート・パーティションをカプセル化することによって作成されます。
swap
-- プライマリ・スワップ・ボリュームで使用。
スタンドアロン・システムのプライマリ・スワップ・パーティションをカプセル化することによって作成されます。
また,クラスタ・メンバのスワップ・ボリュームで使用し,メンバのスワップ・デバイスをカプセル化することによって作成されます。
cluroot
--
cluster_rootvol
ボリュームで使用。
クラスタ単位のルート・ファイル・システム・ドメインを TruCluster Server クラスタの LSM ボリュームに移行することによって作成されます。
大半のストレージ・デバイスと同様に,LSM ボリュームにはブロック型デバイス・インタフェースと文字型デバイス・インタフェースがあります。
ボリュームのブロック型デバイス・インタフェースは,/dev/vol/disk_group
ディレクトリにあります。
ボリュームの文字型デバイス・インタフェースは,/dev/rvol/disk_group
ディレクトリにあります。
これらのインタフェースは UNIX 標準の
open,close,read,write,および
ioctl
呼び出しをサポートしているため,データベース,ファイル・システム,アプリケーション,およびセカンダリ・スワップは,ディスク・パーティションと同じ方法でLSM ボリュームを使用します (図 1-10
を参照)。
図 1-10: ディスク・パーティションと同様に使用する LSM ボリューム
次のインタフェースのいずれかを使用して,LSM オブジェクトの作成,表示,および管理を行なうことができます。
システム・プロンプトに対して LSM コマンドを入力する,コマンド行インタプリタ (CLI)。 本書では,主に LSM CLI コマンドを使用しています。
CLI では LSM のすべての機能を利用できます。 これ以外のインタフェースには,LSM 操作の一部が実行できないものがあります。
LSM Storage Administrator (lsmsa) と呼ばれる Java ベースのグラフィカル・ユーザ・インタフェース (GUI)。
このインタフェースを使用すると,LSM オブジェクトとそれらの関係を,階層化して表示できます。
voldiskadm
と呼ばれるメニュー・ベースの対話型インタフェース。
ディスクまたはディスク・グループに対して,限られた LSM 操作が行えます。
voldiskadm
インタフェースを使用して処理を実行するには,メイン・メニューから操作を選択し,情報の入力の指示に従います。
voldiskadm
インタフェースでは,省略時の値を適宜表示します。
Return キーを押してこの省略時の値を使用することも,新しい値を入力することもできます。
また,いつでも
?
を入力して,オンライン・ヘルプを表示することができます。
詳細については,
voldiskadm(8)
Visual Administrator (dxlsm) と呼ばれるビット・マップ GUI。
これは基本的な X 環境を使用します。
Visual Administsrator を使用すると,ディスクおよびボリュームの表示および管理と,限られた範囲のファイル・システム管理を行うことができます。 Visual Administrator は,LSM オブジェクトがアイコンとして表されているウィンドウを表示します。
注意
Visual Adminstrator (
dxlsm) は,Storage Administrator (lsmsa) に置き換わりました。
詳細については,
dxlsm(8X)
多くの場合,LSM インタフェースは,混在させて使用することができます。
つまり,1 つのインタフェースで作成された LSM オブジェクトは,他の LSM インタフェースで作成された LSM オブジェクトで管理することができ,互換性もあります。
ただし,高速プレックス接続機能は,CLI だけで使用可能です。
1.2.1 LSM コマンド行インタプリタ
LSM コマンド行インタプリタを使用すると,LSM オブジェクトの作成および管理の大半を制御して詳細を指定することができます。
他のインタフェース (lsmsa,voldiskadm,および
dxlsm) は,コマンド行から利用可能な操作をすべてサポートしているわけではありません。
大部分の LSM コマンドは,ハイレベルとローレベルの 2 つのカテゴリに分類できます。
ハイレベル・コマンドは,一般に,ローレベル・コマンドより高機能で,大部分の LSM オブジェクトの操作で推奨される方法です。 ハイレベル・コマンドはショートカットです。 つまり,指定したオペランドや値を複数のローレベル・コマンドに渡すため,多くの操作を 1 つのコマンドで指示できます。 ハイレベル・コマンドは,中間ステップを正しい順番に並べ,指定されたオペランドと意図された結果を評価することによりエラー・チェックを行い,問題があれば警告を出力します。 ハイレベル・コマンドは,ほとんどの場合に最適となる LSM 構成を行うためのアルゴリズムと省略時の設定を使用します。
本書では,細かい調整が必要な場合以外は,主として,ハイレベル・コマンドを使用します。
ローレベル・コマンドを使用するには,ご使用の環境と,LSM 構成の目標に対する詳細な知識と理解が必要です。 ローレベル・コマンドは,特定の LSM オブジェクト・タイプに対する操作です。 多くの場合,ハイレベル・コマンドを使用すれば少ないステップで,エラーのリスクを低く抑えて実行できる操作を,ときには正確な順序で,複数のステップで実行する必要があります。
表 1-1 には,本書で説明している LSM コマンドの機能と,ハイレベル・コマンドとローレベル・コマンドの分類 (該当する場合) を示します。
| コマンド | 機能 | |
| 設定とデーモン用コマンド | ||
volsetup |
|
|
volsave |
LSM 構成データベースのバックアップを行う。 |
|
volrestore |
LSM 構成データベースを復元する。 |
|
voldctl,vold,voliod |
LSM ボリュームの構成とカーネル・デーモンの操作を制御する。 |
|
volwatch |
障害イベントがないか LSM を監視し,ホット・スペアリング機能が使用可能であれば実行する。 通常は,LSM 設定の初期化時に,ホット・スペアリング機能を使用可能にするために使用します。 |
|
| オブジェクト作成と管理用コマンド | コマンド・レベル | |
volassist |
ボリュームの作成,ミラー化,バックアップ,および移動を自動的に行う。 |
ハイレベル -- LSM ボリュームの作成と管理で最も多く使用される LSM コマンド。 |
voldiskadd |
LSM ディスクおよびディスク・グループを作成する。 |
ハイレベル --
voldisksetup
および
voldg
の多くの同じ機能を,1 つの対話型セッションで実行する。 |
voldisksetup |
LSM 用に,1 つ以上のディスクを追加する。 |
ハイレベル |
voldisk |
LSM ディスクを管理する。 |
ローレベル |
voldg |
ディスク・グループを管理する。 |
ハイレベル |
volume |
ボリュームを管理する。 |
ローレベル |
volplex |
プレックスを管理する。 |
ローレベル |
volsd |
サブディスクを管理する。 |
ローレベル |
volmake |
LSM オブジェクトを手動で作成する。 |
ローレベル |
voledit |
LSM レコードを作成,変更,および削除する。 |
ローレベル |
volrecover |
クラッシュまたはディスク障害後に,プレックスとパリティ・データの同期化を行う。 |
ハイレベル |
volmend |
構成レコードの簡単な問題を修正する。 |
ローレベル |
volevac |
ディスクからすべてのボリューム・データを移動する。 |
ハイレベル |
| データ移行とカプセル化用コマンド | ||
volencap |
ディスクまたはディスク・パーティションを LSM ボリュームにカプセル化するスクリプトをセットアップする。 |
|
volreconfig |
|
|
volrootmir |
ルート・ボリュームとスワップ・ボリュームをミラー化する。 |
クラスタではサポートされません。 |
volunroot |
ルート・ボリュームとスワップ・ボリュームを削除する。 |
クラスタではサポートされません。 |
volmigrate,volunmigrate |
AdvFS ドメインから LSM ボリュームへ移行するか,LSM ボリュームから AdvFS ドメインへ移行する。 |
|
vollogcnvt |
ブロック変更ロギング (Version 5.0 より前) を行っているボリュームを,ダーティ・リージョン・ロギング (Version 5.0 以降) を行うように変換する。 |
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| 情報用コマンド | ||
volprint |
LSM 構成情報を表示する。 |
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voldisk |
LSM ディスクに関する情報を表示する。 |
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volinfo |
ボリュームの状態情報を表示する。 |
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volstat |
LSM 統計情報を表示する。 |
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volnotify |
LSM 構成イベントを表示する。 |
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| インタフェース起動用コマンド | ||
lsmsa |
LSM Storage Administrator GUI を起動する。 |
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LSM には,これらのコマンドの他に,説明ファイル
volmake(4)vol_pattern(4)
コマンドについての詳細は,その名前に対応するリファレンス・ページを参照してください。
たとえば,volassist
についての詳細を調べるには,次のコマンドを入力します。
# man volassist
すべての LSM
コマンドとファイルのリストは,
volintro(8)1.2.2 Storage Administrator インタフェース
Storage Administrator には,LSM オブジェクトの作成または管理の情報を入力できるダイアログ・ボックスがあります。 ダイアログ・ボックスへの入力の完了は,複数のコマンドの入力に相当します。 Storage Administrator を使用すると,LSM を実行しているローカルまたはリモートのシステムを管理できます。 Storage Administrator を使用するには,LSM ラインセンスが必要です。
詳細は,付録 A を参照してください。